自律神経は敵ではありません
自律神経のバランスを崩すと、日々の生活をしていくだけでも大変になります。
朝起きられなかったり、夜眠れなかったり、夜中に何度も目が覚めたり。そのせいで日中ぼーっとして集中力がなくなったり。
片頭痛や耳鳴りに一日中悩まされたり、血圧が高すぎたり低すぎたり。
何をするにもだるくて力が入らないのに、いざ出かけると心臓がバクバクして卒倒しそうになったり。
食欲がなかったり、食べすぎてしまったり、消化不良だったり。
あちこちに痛みがあるのに、病院で検査するとなんともないと言われたり。
仕事や学校どころか、なんでもないふつうの生活を送ることが難しくなります。
人付き合いをするのも困難になり、引きこもって孤立してしまうこともあります。
多くの人はそうなると
「自律神経がおかしい、なんとかしなければ」
と思います。
自律神経のバランスが崩れてしまった、なんだかおかしくなってしまったから「直さなければ」と思います。間違ったものを正さなければと思うのです。
でも
自律神経は敵ではなく味方です。
バランスを崩してしまった自律神経は、たしかにさまざまな不調の原因になり、日常生活を大変なものにしてしまっているけれど
それでも
あなたの自律神経は、あなたの味方なのです。
自律神経のもっとも重要な役割は
「安全か脅威かを見分けること」です。
生きている私たちは、それこそ数分ごと数秒ごとに、新しい場面に出くわします。
テレビの画面が切り替わる、ネットのニュース速報が入る、LINEの通知がくる、雨や風の音がする、救急車のサイレンが鳴る、子どもの声がする、どこかから匂いが漂ってくる…
ただ影を見ているだけでも、日々刻々、移り変わっていきます。
そうした「外の世界の変化」があるたびに、私たちのからだは反応しています。自律神経というセンサーを使って、「安全か脅威か」を見分けているわけです。
安全か脅威かを見分けることができなかったら、私たちはこの世界で生き延びていくことができません。事故にあったり、危ない人や場所に近づいてケガをしてしまったり、深く傷ついたりしてしまいます。
自律神経は、私たちが安全にこの世界で生き抜いていけるように、24時間365日体制で「安全か脅威か」を見張ってくれている存在なのです。
今、自律神経のバランスを崩している人がいるとしても、その人の自律神経が間違っているのではありません。狂っているのでもおかしいのでもありません。
おそらく
「それほど辛い思いをしたにちがいない」
と考えます。
睡眠障害も耳鳴りも偏頭痛も、パニックで心臓がバクバクするのも、ふつうの生活さえままならないのも、
自律神経が「まだ安全じゃない!脅威が近くにある!」と大きなサイレンを鳴らしているということです。
かつて
それほどに危険な状況にいたということ。
警戒モードを緩めることができないくらいの状況があって、そこから逃れることが難しく、状況を変えることも難しく、安心して暮らせない状況が続いていたということです。
その経験を、自律神経はちゃんと学習していて、今も警戒のサイレンを鳴らしているのです。
つまり
その人の自律神経は壊れているのでも職務怠慢でもなく、「今この瞬間も自分を守るために必死の警戒を続けている」ということです。
戦時下の地域を想像してみてください。
今は何も起きていないように見えても、一瞬先にはどうなっているかわからないような状況です。
今日こそ眠れるだろうかと思ったその夜に空襲がある、壊れた家をなんとか住めるように直したと思ったらまたミサイルが落ちる。
そんな状況であれば、警戒モードを緩めることはできません。今この瞬間は何も起きていなくても、警戒レベルは最大にしておかなければならなりません。
なぜなら、今まで何度も痛い目をみてきた、怖い思いをしてきたからです。
安心しかけたところで襲われる。希望の灯をやっと灯したところで絶望の暗闇がくる。そういう日々をくり返せば、安心できなくて当然です。
戦時下の地域で暮らす人たちの自律神経がずっと警戒モードだとして、それがおかしいと言う人はいません。間違っていると言うひとはいません。警戒して当然、神経がピリピリに張り詰めていて当然だからです。
自律神経の不調に取り組むときには、必ずここからスタートします。
あなたの自律神経は
敵ではなく、味方です。
忠実で誠実な、他の何よりも頼れる味方です。
ただ、今もしも、自律神経の不調によって生活になにかの支障があって困っているというなら
それは
それほど辛い状況を生き抜いてきた
ということです。
強いストレスがかかる生活だったとか、傷つけられていたとか、耐えてきたとか、我慢して飲み込んできたとか、人知れず涙を流していたとか、何度も絶望したとか。
自律神経の不調は「過酷な状況を生き抜いた証」なのです。
自律神経の不調は
虫歯のように削り落としたり、悪性腫瘍のように外科手術で切除するようなものではありません。
お疲れさま
今までありがとう
よくぞ頑張ってきてくれた
とねぎらうものです。
それは
過酷な状況を生き延びてきたあなた自身へのねぎらいでもあります。
今まであなたを守ってきてくれた自律神経。ねぎらい、いたわって、仲良くなってくださいね。